遺伝を起こす単位である「遺伝子」と、遺伝子全体を合わせた「ゲノム(genome)」という単語は、一般的には同一なものとして使用されます。
1865年、遺伝子に対する概念を科学者グレゴール・ヨハン・メンデルが初めて提示しました。(メンデルの法則)そこから始まった遺伝子に対する研究はその後、1953年にジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックがDNAの二重らせん構造を発見する事に続きます。そして現在、遺伝子の概念がほぼ確立されるまで、数多くの研究者達が遺伝子研究へ力を注いで来ました。またこれから先も、絶え間なく挑戦し続ける研究課題でもあります。
2000年当時、アメリカのクリントン大統領は「ヒトゲノム計画(Human Genome Project)」の完成を発表しました。これはヒトのゲノムの全塩基配列を解析するプロジェクトで、当時クリントン大統領は「今日私たちは、創造主が生命体を作る時に使われた言語を学んでいる」と話しました。
現在、遺伝子分析は色々な場所で活用されています。もちろん、まだ完璧なものではなく、現在まで判明している遺伝子情報はごく一部に過ぎません。しかし、この中でいくつか重要な部分を分析し、色々な方面に活用することは現在でも可能だという事がポイントです。
ハリウッドスターのアンジェリーナ・ジョリーは、遺伝子検査を通じて乳がんを発症する確率が87%であるという結果を受け、乳房切除をした事は大きなニュースになりました。これはBRCAという遺伝子に病的な変異がある事が分かった為です。必ず乳がんを発症するという訳ではありませんが、BRCA遺伝子に変異があると乳がんの発症リスクが高まると言われています。
このように個別に遺伝子を分析し問題点を解決していく方法は、研究が続けられています。これは遺伝子治療にも大きく関係しています。
遺伝子治療とは、病的に変異している遺伝子を正常な遺伝子に変える過程を言います。遺伝子治療剤とは、欠乏および変異している遺伝子を矯正、交代させ病気の根本的な問題を治療する治療剤の事を言います。
研究者は色々な方面から遺伝子治療の研究にあたっています。正常な機能を持つ遺伝子をゲノム内に挿入し遺伝子を正常なものに変えたり、相同組換え(homologous recombination)を通じて正常な遺伝子に変更出来るようにする研究が進行中です。
選択的逆突然変異(selective reverse mutation)を通じて、正常に機能していない遺伝子を正常なものへと矯正出来れば、特定遺伝子の調節メカニズムを変更することにより多くの病気を治療出来る可能性があります。
遺伝子治療の過程には、特定の細胞、および組織へと治療遺伝子を挿入する為にベクターが使用され、その挿入方法には2種類の方法があります。
(1)ex vivo方式
体外で細胞を治療遺伝子に形質転換させ、ピンポイントに増殖させた後に対象の組織へと挿入する方法です。遺伝子伝達の効率が高く、特にレトロウイルスベクター(retroviral vectors)で効果的です。マーカー遺伝子を持つベクターの場合、コンバージョンされた細胞を強化します。
(2)in vivo方式
ex vivo方式とは反対に、対象細胞および組織に治療遺伝子を直接挿入する方法です。ex vivo方式に比べ実用性、適用性の面で有利で研究者の間でよく使われる方法ですが、遺伝子を対象細胞へのみ届けられるように注意が必要となります。
最近では、遺伝子治療と幹細胞関連技術を組み合わせた最新の治療法が注目を集めています。遺伝子治療剤の免疫反応による安全性の問題が大きな壁ですが、これを解決する為に幹細胞をターゲットとした技術が効果的な方法論として盛り上がりを見せています。これは、個人の骨髄から採取した幹細胞は免疫体系による拒否反応が無く、変化させた幹細胞を利用した遺伝子は対象の細胞に容易に到達出来る為です。
遺伝子治療で治せる疾病の中には、当然がんも含まれており注目されている治療法です。既存のがん治療における副作用等を克服できる、新たな突破口になりつつあるという訳です。慢性疾患や失明に対する治療もまた、遺伝子治療が新たな希望になっています。一部では臨床試験も実行中です。しかし、現時点では遺伝子治療には高額の費用が必要になるのが現実です。高額な開発費用、そして厳格な規制、法律面、安全性の問題など、解決すべき問題はたくさんあります。これからも更なる研究が必要となる分野でしょう。