重粒子治療は、皮膚内部の奥深くにあるがん細胞へ重粒子を発射し、治療機器で前もって操作しておいた深さに到達すると周辺のがん細胞を破壊し除去する治療方法です。夢のがん治療と呼ばれる重粒子線治療は、一つの部位に固まっている固形のがんに適しています。重粒子線治療はブラッグ・ピーク(Bragg peak)という特性があり、これによってがん細胞の殺傷能力はそのままに、副作用や痛みはほぼ無いという特長があります。
重粒子線、粒子線を光の速さ近くにまで加速させがん細胞を破壊する過程で、体内のがんへ到達する前には20~30%の弱い放射線量で、がん部分で残りの放射線量がピークを迎えます。このがん部分で放射線量のエネルギーがピークになる特性をブラッグ・ピーク(Bragg peak)と言います。従来のX線とは違い、がん部分以外の細胞にはダメージをほぼ与えないという長所があります。
世界各地にある重粒子線治療センターの大部分は、加速装置の大きさとがん病巣への放射線集中度、そして放射線による生物学的効果を考慮し、炭素イオン線を使用しています。
重粒子は陽子線に比べ物理的には放射線集中度は似ていますが、生物学的な効果(がんを殺す効果)は2~3倍程大きいと言われている為、少ない放射線量でより効果的に治療を行えます。
X線を用いた放射線治療は、がん部分だけではなくその周囲にある正常な細胞にまで放射線によるダメージを与えてしまいます。またがん部分に照射出来る放射線量も限られており、その治療効果も限定的なものになっています。X線治療も発展を続けており、初期の2次元放射線治療から3次元原体照射、強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy、IMRT)、そして放射線の照射を補助する画像誘導放射線治療(Image-Guided Radiotherapy、IGRT)など様々な治療法があります。しかしながらX線の物理的な特性により、がん破壊に十分な放射線量を照射する事は困難を極めます。
既存の放射線治療に使われるX線、ガンマ線等は、身体の表面部分で効果が大きく、エネルギーを放出しながら体内を進む為、その効果は徐々に弱まります。また体内を進む過程で正常な細胞も傷つけてしまう為、髪の毛が抜けたり等の副作用が伴います。
その反面、重粒子線治療は炭素内にある重イオンを光速近くにまで加速し、1秒あたり10億個程の原子核の粒子を体内に送り、がん細胞を破壊します。ブラッグ・ピーク特性により、ガンマ線やX線利用時より効果的にがんを破壊出来ます。治療期間も比較的短く、正常細胞の損傷も少ない為副作用も殆どありません。
・がん部分のみへ放射線を集中させる線量集中度が高い為、X線治療と比べ治療効果が高まります。
・がん部分に到達するまでの正常細胞に与えるダメージが少なく、副作用がほぼありません。
・がんの殺傷能力が高い為、1回の治療で得られる効果が高く治療期間を短縮出来ます。
重粒子線治療は一つの部位に固まっている固形のがんに適した治療法です。白血病などの血液のがん、広範囲に転移しているがんなどには適していません。治療出来るがんの一例は以下のようになります。
・頭頚部がん
・肺がん
・肝臓がん
・前立腺がん
・すい臓がん
・食道がん
・子宮がん
・脳腫瘍 などがあります。
特に頭頚部がんのような手術での治療が難しい部位のがんや、既存の放射線治療では効果を得にくい難治性のがんなどで重粒子線治療が効果を発揮します。
重粒子線治療は骨軟部腫瘍、頭頸部がん、前立腺がんに対しては公的保険が適用されます。その他の疾患に関しては、公的保険が適用されない自由診療となります。治療内容等、状況によっても異なってきますが、一般的な例として治療費は300万円前後が見込まれます。また重粒子線治療が受けられる専用施設の数も限られており、日本全国で群馬、千葉、神奈川、大阪、兵庫、佐賀の5か所です。基本的には入院が必要なく、通院での治療が可能です。1回あたりの治療時間は約30分程度と、比較的短時間です。ですので日常生活に大きな影響を与える事なく、治療を並行して行う事も出来ます。治療期間についてはがんの部位や治療を実施する施設、重粒子線の放射回数によって違いがありますが、おおよそ1週間から1か月前後で実施されます。
重粒子線治療はこのように比較的身体への負担が少なく、通院しながらの治療が可能な為、QOLを下げる事がない治療法であると言えます。徐々に保険適用となる部分も拡大されており、これからも様々な発展が期待出来る治療法でしょう。