がんの免疫療法に対して先端治療のイメージを持っている人が比較的多いように思いますが、実は、とりわけ新しい治療と言うではありません。
むしろ、その起源は古く、ベースとなる技術の開発に至っては、100年以上も前にさかのぼります。
では、がん治療における「がん免疫治療」は、成長してきたのでしょうか。
がん治療における「がん免疫治療」でもともと行われていたのは、細菌を投与するという治療法でのアプローチでしたので、現代の主流となっているアプローチとまったく同じというわけではありません。海外の外科医が自分の担当する患者に投与したところ、がん細胞に驚くべき反応が見られたのです。細菌に対抗しようとする免疫反応が起こるのは想定されていた事象ですが、それだけでなく、がんが小さくなることが分かりました。ここの検証結果からがんの治療は、飛躍的な進歩を見せ始めることになります。ただし、想像できるように一朝一夕にがん免疫治療の研究が進んでいったわけではありません。大きな進展が見られるまでに、数十年という時間が過ぎ去りました。本当の意味で、現代のがん治療(特にがん免疫治療)に通ずる発展を遂げたのは、20世紀の末になってからです。
がん治療の研究で、まず、キノコをはじめとした細菌関連の対象から有効成分の抽出を行い、それを用いる試みによって新しいタイプの薬が作られました。それからさらに10年ほどの時間が経過し、免疫機能を活性化する物質を用いた治療が行われるようになったのです。細菌から物質へと治療研究がステップアップします。
さらに、別の角度からの研究も進み、がん細胞の投与を実施するような療法まで誕生したことで、従来と局面が大きく変わって行きます。研究のため投与するがん細胞は非常に弱いでから、もちろん「体に害がない状態」で研究が進められました。このように、がん治療には体に異物を入れる形で進歩してきた歴史があります。しかし、その研究は、あくまでも人間が本来持っている治癒力を用いただけに過ぎませんので、より高い効果を生みだすには、他のアプローチも必要になってきます。この発想に行きついた結果、投与以外の治療法も積極的に検討されるようになってきました。
投与以外の治療法として検討された内容は、医療技術の発達によって着実に実現されています。たとえば、体内の免疫細胞を増やすために、いったん体外に取りだす方法も実施されています。単純に免疫細胞を増やすだけでも効果を期待できますが、がんへの抑制効果を強化してから体内に戻すことで、さらに効果的な結果が期待できます。化学や生物学など複数の分野の知識を深いレベルで融合させることで、これまでに存在しなかった治療法が次々と生み出されています。
近年になって「T細胞」を利用した治療手法にも注目が集まっており、実用化に向けて期待が高まっていく一方です。さらには、免疫細胞の一種が作っている抗体を工学的に作り出す技術も確立されました。その他にも、抗体によってがんの活動を弱める薬品も開発されています。
これらはどれも近年の研究結果であり、急激な進化を始めてから長い年数が経っているわけではありません。それでも、短期間のうちにがん免疫療法の研究治療が目覚ましい成果を上げていることも事実です。
がん免疫療法のアプローチの仕方が、近年、次々と変化していくのも、がん治療の大きな特徴となっています。研究によって新しいことが分かるたびに、それを最大限に活かそうとするスタンスで取り組まれているからです。たとえば、近年になって分かった事実として、免疫からのダメージをがんが抑制していることが挙げられます。その状態でいくら免疫を活性化させても、十分な効果を得るのは困難です。このような場合、従来は物量で押し切ろうとするのが一般的でした。しかし、それでは効率が良くないうえに、がん患者が大きな負担を受けることになります。そこで治療の視点を変えて、抑制する働きをセーブさせる発想を考え、実際、その働きが弱まるということは、免疫の力が損なわれずに済むということです。もちろん、これらが簡単に行えることではなく、研究は現在も日進月歩で繰り返されています。それでも、効果を見込めるということで、現在、免疫チェックポイント阻害療法は大いに期待されています。