前立腺は膀胱から尿道周辺を囲んでいる、栗の実ぐらいの大きさの男性生殖器官です。女性の妊娠に必要な精液の液体成分を分泌する役割を主に果たしており、正常な性生活に欠かせない器官です。年齢を重ねて生物学的な役割を終え、不要となった前立腺が肥大化し、前立腺肥大症や前立腺がんのような疾患を引き起こし問題となります。全世界的に寿命が延びるにつれ、男性の場合は前立腺肥大症と共に、前立腺がんの発生頻度が増加傾向にあります。
正常な細胞は一定期間活動し役割を終えると死滅しますが、何らかの原因で細胞に異常が生じると、細胞が死滅せずに継続して増殖することで細胞の塊を作り出します。前立腺がんの細胞は正常な一連の流れから外れ、増殖を続けながら周辺の他の臓器へと浸潤します。また血管やリンパ腺を通じて、離れた他の場所へと転移することもあります。前立腺に発生するがんの大部分は、腺細胞から発生する腺がんです。他のがんと比べて増殖するスピードはゆっくりとしています。よって初期の状態ではこれといった症状がありませんが、ある程度がんが進行すると排尿しにくい、逆に排尿の回数が増える、腰の痛み、血尿などの症状が現れたりします。
前立腺がんと関連する疾患として、前立腺肥大症があります。前立腺肥大症は、よく知られている高血圧や糖尿病よりも発生頻度が高い疾患です。高齢に伴い現れる症状で、病気というよりも年齢を重ねることで自然と発生する一種の老化現象と見ることが出来ます。前立腺が肥大化すると、尿道を圧迫し排尿障害を引き起こします。薬物治療や手術などで前立腺を切り取り、圧迫されていた尿道を解放することにより正常な状態へと戻します。
前立腺がんでは、がんの悪性度や進行具合によって、監視療法という経過観察が行われることもあります。前立腺がんが他のがんと比べ、進行がゆっくりであるため、治療による体への負担を避けることが目的です。積極的な治療が必要な場合は、放射線治療や外科治療(手術)、ホルモン治療などが行われます。これらに加えて、がん先端治療である遺伝子治療や免疫細胞治療が、前立腺がんの治療においても近年注目されています。前立腺がんは生殖活動に影響が出ることもあるため、標準治療にがん先端治療を併用することで、より患者さんの希望に沿った治療の可能性が広がります。